PTSD

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PTSDはどんな病気? PTSDの治療法や予防法は、どのようにすればいいの?

公開日
更新日

 
執筆:須賀 香穂里(メンタルヘルスライター)
医療監修:豊田 早苗(医師、とよだクリニック院長)
 
 
PTSDについて。
 
PTSDという病名は、聞いたことがあると思いますが、詳しい内容については余り良くわかっていないのではないでしょうか?
 
PTSDは、強いショック体験やストレスが原因で起こる様々な障害のことです。
 
ここ、PTSDの原因、症例、症状、治療、予防について詳しく説明します。
 
 

PTSDとトラウマ

 
まず、『トラウマ』という言葉は聞いたことがあると思います。
 
これは強い恐怖など大きな衝撃を受けた時にできるこころの傷のことです。

 
トラウマを抱える人は体調を崩したり、いつも通りの生活ができなくなったりなど、多くのストレス反応に苦しむことがあります。
 
トラウマからくる不調は、時間が立てばだんだんと収まってくるものです。しかし中には、長い間トラウマから立ち直れず、何か月も元の生活に戻れなくなる人がいます。
 
このような人は、もしかすると心的外傷ストレス障害(PTSD)かもしれません。
 
 

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PTSDとはなにか

 
さてPTSDとはどのような病気なのでしょうか。まずはPTSDを発症した人の例をいくつか紹介します。
 

PTSD症例1

 
「退役した軍人が、車や飛行機の離陸音など爆音を聞くと、(その爆音を敵の襲撃だと思い)自分の身を守ろうとして床に伏せる。数分間パニック状態になり、自分は敵の砲火を避けるため、塹壕の中に戻っているのだと確信してしまう」
 
戦争の体験はPTSDにつながりやすいトラウマ体験のひとつです。
 
普通なら、飛行機の音を聞いて敵の襲撃してきた音と聞き違えることはないと思います。
 
しかしこの退役軍人は戦争の記憶が強いトラウマとなっており、戦争が終わった今でも「爆音=敵の襲撃」ととらえてしまい、身体は安全な場所にあるのに意識だけが戦争当時に戻ってしまうという症状が現れてしまっているのです。
 
 

PTSD 症例2

 
「当時4歳だったSちゃんは夜中に大きな地震を体験した。気が付いたら家具の隙間に挟まれており、母親に助けを求めたが返事がなかった。救急隊に助け出されたときには、母親と姉は亡くなっていて、父親との避難生活が始まった。
 
避難生活では、小さな余震でも怯え、夜は暗いと怖くて眠れなかった。

仮設住宅に移った後、急に頭が痛くなり体調不良が続き、友達といても楽しくなく、情緒不安定になった」
 
地震などの自然災害もまた、PTSDにつながりやすいトラウマ体験のひとつです。Sちゃんの場合、震災による恐怖体験がトラウマとなり、仮設住宅に移ったころに典型的なPTSDの症状を発症しています。
 
 

PTSDの典型的な症状

 
上の二つの事例からわかるように、PTSDは記憶の混濁を引き起こしたり、こころや身体の健康にも多くの影響を与えたりします。
 
下記にPTSDの典型的な症状をまとめました。
 

突然辛い記憶が蘇る

 
体験した辛い出来事や、それに伴う恐怖、苦痛、無力感などの感情をふとした時に思い出す、という症状です。「トラウマの再体験」ともいいます。
 
全く別のことを行っているときに突然トラウマの出来事を思い出す「侵入的想起」や、同じ悪夢を繰り返し見るなど眠っている間に起こることもあります。
 
また、トラウマを思い出させるようなもの(場所、音、においなど)に接したときに強い苦痛を感じるといった「再体験」も起こることもあります。「再体験」が起きた時は、動悸やめまいなどの身体反応が生じることがあります。
 
身体的には安全な場所にいるのに、意識だけがトラウマ体験をした当時に戻ってしまい、今まさにその体験をしているように感じてしまう「フラッシュバック※」も「再体験」に含まれます。
 
※フラッシュバックについては、「フラッシュバック :PTSD(心的外傷的ストレス障害)と関係があるの?」の記事で詳しく説明しています
 
症例1の退役軍人の爆音を聞いた時の反応は、まさに再体験の症状であったと考えられます。
 

回避・麻痺

 
PTSDを発症すると、上記の「再体験」によって辛い記憶を何度も思い出すことになります。
 
それを繰り返しているうちに、人はなるべくつらい思い出を思い出さないように、トラウマにつながるような場所や状況などを避けるようになります。
 
これが「回避」です。
 
「回避」は本人が意識していても、意識していなくても起こり得ます。
 
「回避」した結果、行動が限られてしまうことで日常生活に支障が出ることもあります。
 
また、辛い記憶を思い出すのを避けるために感情や感覚を「麻痺」させてしまうこともあります。辛い感情を思い出さない代わりに、その他の感情も鈍くなってしまうのです。
 
「ぼーっとする」のもよく見られる現象で、辛い記憶から「少し意識を逸らす」ことでこころを守ろうとする「解離」の一種です。
 
この「ぼーっとする」状態がより強くなると、トラウマ体験時の記憶を一部思い出せなくなるなどの症状も現れます。
 

過覚醒

 
簡単に言えば「常にピリピリしている状態」です。
 
不眠や集中力の低下、イライラ感、ちょっとしたことで過剰に驚く、など身体だけでなく情緒の面に影響が出ます。
 
症例2のSちゃんは、夜眠れなかったり情緒不安定に陥ったりしていましたが、それはこの過覚醒の症状であったと考えられます。
 

その他の身体反応

 
疲労感や頭痛、食欲不振、めまい、過呼吸、動悸など身体的な症状がみられる場合もあります。
 
これは過覚醒によって体がなかなかリラックスできないことが原因だと考えられます。
 
 

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PTSDの原因と診断基準

 
PTSDの診断基準は、アメリカ精神医学会による「DSM-IV―TR」に基づいたものが一般的です。
 
これによると、PTSDの診断の第一段階として、
 
「命の危険、または重傷を負うような出来事を、1度以上体験した、またはそのような出来事を目撃、直面した」
 
ことがあげられます。
 
つまり、命に関わるような驚異的な出来事を自分が体験するか、誰かが体験するのを目撃したりして、こころに大きな衝撃を受けた場合にPTSDの発症につながるということです。
 
この衝撃的な体験こそがトラウマ体験となります。
 
トラウマになりやすい出来事は、以下の4つが挙げられます。
 

  • 1. 自然災害:地震、火災、台風、洪水、津波 など
  • 2. 社会的不安:戦争、テロ事件、暴動 など
  • 3. 命の危機に関わる体験:暴力、事故、犯罪、性的被害 など
  • 4. 喪失体験:家族・友人の死、大切なものの喪失 など

 
このように、いつ起こるか予期することが難しく、こころの準備ができないものや、自分のアイデンティティや存在の意義が脅かされるような出来事はトラウマとしてこころの傷になりやすく、PTSDにつながりやすいのです。
 
このようなトラウマ体験を1度以上体験した後、先ほど紹介したPTSDの典型的な症状が1か月以上続いている場合、それはPTSDであると診断されます。
 
症状が3か月未満である場合は急性PTSD、3か月以上続く場合は慢性PTSDとして診断され、症状が1か月未満である場合は急性ストレス障害(ASD)として診断されます。
 
PTSDとASDの違いは症状の継続期間の長さで、症状は同じです。
 
 

PTSDの治療法・対処法

 
それではPTSDと診断された場合、どのように治療していけばよいのでしょうか。
 
治療の最終的な目的は、「原因であるトラウマ体験を過去の出来事として終わらせる」ことになります。
 
そのためには自分の中の辛い記憶と向き合わなくてはなりません。ここでは、過去と向き合いトラウマを乗り越えるために、PTSDの治療法として有効とされているいくつかの心理学的な方法を紹介します。
 

持続的エクスポージャー療法

この療法は現在PTSDの治療法として特に認められている、認知行動療法という心理学的手法のひとつです。
 
この方法は、あえてトラウマとなった場面をイメージしたり、避けていた場所や状況に身を置いたりすることによって、「トラウマ体験の記憶を思い出しても今の自分の身が危険にさらされるわけではない」ということを実感していく治療法です。
 
簡単に言えば、トラウマを思い出すことに慣れさせるということです。
 
ただし「思い出すこと=治療」という認識だけでこの方法を行うのは、かえって症状を悪化させてしまう危険があるので、この療法は専門家の立会いのもと行われる必要があります。
 

対人関係療法

持続的エクスポージャー療法は、あえてトラウマの再体験を促すという点で、患者にとって少なからず覚悟が必要な療法です。
 
それに対してこの知人対人関係療法は、エクスポージャー療法とは全く違うところからアプローチしていきます。
 
対人関係療法では、PTSDの症状が患者の対人関係にどのような影響を与えているかに注目し、改善していくことによってこころの安定を取り戻していきます。
 
よって、エクスポージャー療法が怖くてできない人や、現在の「生きづらさ」で悩んでいる人におすすめの療法となります。
 
 

PTSDを予防するには

 

ここまで、PTSDがどのような疾患なのか、どのように治療するのかについて解説してきましたが、そもそもPTSDになるのを予防することはできないのでしょうか。
 
PTSDの原因となるのは過去の衝撃的なトラウマ体験です。トラウマは「いつ起こるか予期できない」出来事ほど残りやすいものです。
 
よってトラウマ体験そのものを事前に防ぐというのはほとんどできません。しかしすべての出来事が防止できないというわけでもありません。
 
例えば、下記のように事前の予行練習や起こりうる事態の予測、その事態が起こった時の計画などを練っておくことによってPTSDの可能性を減らすことができます
 

  • 手術など予定された医療行為
  • 予想できる喪失体験(末期がん患者である恋人の死 など)
  • 軍人が戦地に赴くとき
  • テロや強盗のリスクがある職業についている人とその家族(銀行員など)

 
 

情報との付き合い方に気を付ける

 
トラウマと言われると、自分が体験したことと思いがちですが、他人が体験したことを目にすることも立派なトラウマ体験です。
 
それにはインターネットやテレビなどで間接的に衝撃的な映像や情報を見ることも含まれます。
 
テレビで流れた映像を繰り返し見るだけで自分が被災したようなストレスを受けてトラウマにつながってしまうこともあれば、被災した人が映像を見て「自分はこんなに恐ろしい体験をしたんだ」と二重に衝撃を受けてしまうこともあるのです。
 
震災などのあとで情報を得るときには、信頼のできる人から聞くようにしたり、どの番組を見るか話し合ったりして、慎重に情報と付き合っていく必要があります。
 
情報の取捨選択をすることは、受けるはずのなかったトラウマやPTSDの予防につながると考えられます。
 
 

もしも症状に苦しんでいるなら…

 
PTSDは、衝撃的な体験から自分を守るための、いわば自然な反応の延長線上にある病気です。
 
「自分は弱いから」などと自分を責めるのはやめましょう。
 
また、PTSDはストレスとも強く関係しています。自然災害などの衝撃的体験のあとで、「がんばれ」「負けるな」といった叱咤激励は逆に症状を悪化させたり、PTSDの発症につながったりすることもあります。
 
ショックは自然に和らいでいくものですから、頑張りすぎないようにしましょう。
 
人と話すこともPTSDに予防や対処に効果的です。
 
信頼できる誰かに話を聞いてもらうだけでもこころは落ち着くものです。
 
PTSDは辛い記憶が伴い苦痛を感じるものですが、悲観的にならずにゆったりと構えてみましょう。
 
焦らずに、自分のタイミングで辛い記憶と向き合って、乗り越えていけばよいのです。
 
 
【参考文献】
(1) バベット・ロスチャイルド(国際トラウマティック・ストレス学会)(2015).これだけは知っておきたいPTSDとトラウマの基礎知識 訳:久保隆司 創元社 pp.16-20,156-160
(2) 水島広子(対人関係療法専門クリニック院長)(2011).正しく知る心的外傷・PTSD ‐正しい理解でつながりを取り戻す‐ 技術評論社 pp.21-22,30-34,47-50,132-133
(3)All about『PTSD(心的外傷後ストレス障害)の原因・症状・症例』 
(4)文部科学省 『1.外傷(トラウマ)体験とは』 

 
 
<執筆者プロフィール>
須賀 香穂里(すが・かほり)
神奈川大学人間科学部・人間科学科所属
 
<監修者プロフィール>
豊田 早苗(とよだ さなえ)
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年医師国家試験取得。総合診療医としての研修及び実地勤務を経て、2006年とよだクリニック開業。2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。著書に『あがり症克服プログラム』『3分ストレス解消法』など
 
 

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◆厚生労働省が運営する、生活習慣病予防のための健康情報サイト『e-ヘルスネット』・PTSDの項目で、PTSDの他、関連情報が紹介されています。
 
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◆Mocosuku運営の姉妹サイト
 
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